創業物語 プロフィール
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  第22話    「ボクで良かったら採用しませんか?」 2000/12/24  
1983年10月某日。

大手安定企業への就職という選択肢を自ら消してしまったボクは、明日の姿も
よく見えない零細ソフトウェア企業S社の社長のところに、リクルートの営業
マンとして訪問していました。

「社長、申し訳ありません。結局、誰ひとりとして応募はおろか、資料請求さ
え来なかったですね…」

「釘ちゃんのせいじゃないさ。これがウチの実力だよ…」

ボクはS社から、「新卒採用のすべてを任す」と言われ、会社案内の作成、
リクルートブックへの掲載、原稿の作成、DMの発送などなど、許された予算
の範囲で出来る限りの告知を学生に対して行った結果が上の会話でした。

「釘ちゃんさ、今夜ひま?良かったら飲みに行かない?」

S社の社長は、思い詰めたボクの表情を察してか、その日飲みに誘ってくれた
のです。

(よーし…。今日が決行日だ!)

S社の社長と、新宿のちょっとだけ高級っぽい店で飲み始めて間もなくの頃。

「社長、実はお話があります」

「なんだい釘ちゃん、あらたまって。もう採用の話はいいよ…」

「いや、そうじゃなくて…」

「ん?」

「私は社長に今までウソをついていました」

「うそ…?」

「はい、ウソです。私は、いやボクは実はリクルートの社員なんかじゃありま
  せん」

「なに???、だってリクルートブックにうち、ちゃんと載っかってるよ」

「いや、そうじゃなくて…、ボクはまだ社員じゃなくて学生なんです。
    明治学院大学経済学部4年の、現役の正真正銘の学生なんです!」

「……(絶句)」

「今まで隠していて申し訳ありませんでした!」

「へー…。そー…。いやー、釘ちゃん学生だったのー…」

「はい。あ、これ学生証です」

「いやーまいったなー、へー、ビックリした。学生があんな立派な営業するんだ」

「いやいや、これでも売れない営業マンで社内では有名で、へへへ…」

「ガハハハ!、いやー学生でも何でもいいよ。飲も飲も!」

「いや、社長、話はそれだけではないんです」

「なに、まだほかにもウソついてたことがあるの?」

「いや、そうじゃなくて…。あのー…」

「なんだよ、釘ちゃん、はっきり言いなよ」

「社、社長、ボ・ボクで良かったら採用しませんか!」

「なにー!!!」

                (どっひゃー!遂に言っちまった。知らないぞ!…つづく)

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