釘さんの100の出会い プロフィール
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  <第50話> 「求人票で出会った文具デザイン会社 (後編) 」   2005/11/07  
 
「え、新卒採用の企画ですか? ぜひお話をお聞きしたいです。実は困ってい
たんです。すぐにお願いできますか?楽しみにお待ちしております!!」
リクルートで営業を始めて数ヶ月。こんなにもウェルカムな電話の反応を得た
のは初めてだった。

こーりゃきっとうまくいくぞ♪ ・・・そんな予感たっぷりの訪問だった。

電話をしてわずか30分後、僕はN企画の応接室で、ウェルカム電話の主と熱
い商談を展開していた。実はその電話の主は、N企画の次期社長(当時専務)
の奥さんだったのだ。

名前はNさん。肩書きは総務部長だった。推定年齢30数歳。とても上品で笑
顔が素敵な方だった。

その場の商談でほぼ成約。N企画にとって、初の新卒採用がスタートした瞬間
だった。

N企画の主な事業内容は、文具のデザイン。大手の文具メーカーから、定規や
ふで箱や消しゴムや鉛筆などなどのデザインを一手に引き受けていた。独自の
デザインが好評で業績も好調。僕らも良く知っている商品の多くを、実はこの
会社がデザインしていたのだった。

この会社の魅力をキチンと伝えることができれば、きっと採用はうまくいくと
僕は確信した。ただ、許された予算だけで多くの学生に伝えきるには多少の心
配があった。

そこで僕が考え出したのは、当時のリクルートが一般の書店で販売していた雑
誌『就職ジャーナル』にパブリシティ(記事)として取り扱ってもらうこと。
学生にとって身近な文具を世の中に送り出しているのは実はこの会社なんだっ
ていうことを記事として扱えれば、きっと大きな効果があると思った。

すぐにジャーナルの編集長に電話をして直談判。編集長との何回かのやりとり
で、意外なほどあっさりとOKが出た。

余談だが、この編集長の対応からもわかるように、当時のリクルートの社員っ
てホントにスゴイと思った。まだ正社員にもなっていない学生営業マン、しか
も会ったこともない営業マンの提案を正面から受け止めてくれ、実際に通して
くれたのだ。

結局、この就職ジャーナルの企画が大成功。他の媒体との相乗効果もあり、多
くの優秀な学生がN企画に応募してくれた。
担当のNさんは大喜び。僕はたいへん感謝されると同時に、大きな信頼をいた
だくことになった。僕の管轄外ではあったが、社員教育の仕事も全面的にリク
ルートに発注してもらったりした。

このNさん。僕が訪問すると、必ず美味しいコーヒーとケーキを出してくださ
った。直接の仕事の話以外にも、世間話を楽しそうにしてくださる。僕にとっ
ても、Nさんのところへの訪問は、束の間の息抜きタイムでもあった。

時は過ぎ、翌年の春。初めての新入社員が正式に入社。Nさんは僕がいた神田
営業所に電話をし、「クギサキさんへのお礼の意味も含めてパーティーに招き
たい」と申し出てくれた。

しかし、僕はもうこのとき、リクルートを辞めており、その事実を知ったのは
ずいぶんと後のことだった。僕は東北のほうに異動したということになってい
たのだ。「クギサキは実は学生だった」という事実はN企画には隠せ、という
神田営業所の方針だったのだが、ちょっと悲しい事実だった。

Nさんとは、以来まったくお会いしていないのだが、いまだに淹れたてのコー
ヒーの味とNさんとの楽しい会話は忘れない。

ということで、36番目の出会い。母校への求人票がきかっけで知り合った文
具デザイン会社の、とっても上品な奥様総務部長、Nさんとの出会いでした。
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