釘さんの100の出会い プロフィール
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  <第51話> 「零細ベンチャーS社のO社長との出会い (その1) 」   2005/11/14  
 
1983年夏。リクルートでの汗だく営業の毎日は続いていた。

当時ボクが新規客をみつけるネタ本のひとつにしていたのが、中途採用情報誌 『週刊就職情報』(後にBingと改名)。リクルートグループの雑誌ではあっ たのだが、発行している会社も営業部隊も別の組織だった。

この本に新しく掲載された会社に対して「新卒採用のほうはいかがですか?」 と、「ポテトも一緒にいかがですか?」みたいな電話をかけまくっていた。

この『週刊就職情報』に掲載されていた会社のなかには、なかなか怪しげな会 社も多く含まれていた。

アポを取って訪問したら、事務所は路地ウラの小さなアパートみたいな雑居ビ ルの一室。中に入ると机2つと打ち合わせ用のテーブルだけ。妖怪映画に出て きそうな不気味な事務員さんが冷め切ったお茶を「どうぞ…」と置いて去って いく。その後には、派手なスーツをまとった、いかにもインチキ臭そうな社長 が登場・・・なんてことも冗談ではなく、よくあった。


そんな怪しげな会社への訪問が多かったころに出会ったのが、今回登場のSシ ステム社(短くS社とします)という会社だ。

このS社。週刊就職情報で「SE、プログラマー」の募集を行っている、いわ ゆるコンピュータソフトウェア開発会社。取引先は大手電機メーカーと書かれ ている。「先進的な制御システムの数々を独自の技術で開発中!」なんて書い てあるのだが、文系のボクには、きっとスゴイことをやってる会社なんだろう な、くらいの感想しか持ち得なかった。

ま、とりあえずアポをとってみるかとダイヤルを回す。

「社長いらっしゃいますか?」
「はい、私ですが」

いきなり社長が電話に出た。ラッキー!と思った。

「新卒採用のことで伺いたいんですが」
「今日ならいいよ」

またまたラッキー。いきなり電話をしたら社長が出て即日のアポ。ひょっとし たら即日受注なんてこともあるかもしれない。

そんなドキドキの予感で、西神田にあるS社の事務所を目指して自転車をえっ ちらおっちら漕いで行った。

小さなビルだった。道路に面してはいたが、幅は3メートルもなかったんじゃ ないだろうか。そのビルの8階にS社はあった。

エレベータを降りてドアを開けた。

机が10個くらいあるのだが、誰もいない。ゴメンください!といっても誰も 出てこない。

ほどなく、「ジャ~~」という水洗便所の流れる音とともに左手のドアから、 「お、いらっしゃい」と、30代半ばの男性が煙草を口にくわえたまま出てき た。

これが、ボクの運命を大きく変えることになるS社のO社長との最初の出会い の瞬間だった。

(その2へつづく)

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