釘さんの100の出会い プロフィール
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  <第20話> 「座右の銘『小事を気にせず…』との出会い (前編)    2005/04/04  
 
僕が人形劇団に入ったきっかけにもなった当時の先輩(大学4年生)に、クス
モトさんという女性がいた。鹿児島出身の人で、同じ九州出身の僕を可愛がっ
てくれた人だ。

そのクスモトさんが住んでいた下宿のそばに、クスモトさんが家庭教師をして
いた小学生がいたのだが、その小学生の家庭教師を、僕にやってみないかと言
われた。

僕は大衆割烹のアルバイトで生活費を稼いでいたが、十分な給料ではなかった
こともあり、「日曜なら店も休みなので出来ます!ありがとうございます!!」
とクスモトさんに感謝しながら答えた。

4月下旬の日曜日だった。

その家庭教師先の小学生と面談したあと、近くにあったクスモトさんの下宿に
寄らせてもらった。

一人暮らしの女性の部屋になんか入っていいんだろうか!?

などという躊躇する気持ちはほとんどなく(苦笑)、ずけずけと入り込んだ。

6畳一間の部屋だった。中央に小さなテーブルがあり、壁際には綺麗に整理さ
れた本棚があった。

淹れてもらったコーヒーをすすりながら、本棚を眺めていたときだった。

「クギサキくん、この漫画、知ってる?」

渡された一冊のコミック本のタイトルは、『浮浪雲(はぐれぐも)』。

小学館のビッグコミックオリジナルに連載されていたジョージ秋山氏の著作だ
(注。いまでも連載されています。1975年から連載されているので、30年も続
いている超大作ということになります)。

ビッグコミックオリジナルというコミック誌は、主にサラリーマン層を対象と
した雑誌だったこともあり、僕は『浮浪雲』の存在をこのときまで知らなかっ
た。

「じゃぁ、これ、クギサキくんにあげるよ。全部で10巻あるから、持てるだ
け持って行っていいよ。いまのクギサキくんにぜひ読んで欲しい本なんだ」

「へぇー。そんなに面白いんですか?楽しみだなぁ…」

その日の夜、僕は自分の下宿で全10巻を読んだ。そして全身が震えた。涙が
こみ上げてきた。今までに経験したことのない感動を覚えたのだった。

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