釘さんの100の出会い プロフィール
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  <第21話> 「座右の銘『小事を気にせず…』との出会い (後編)    2005/04/11  
 
人形劇団の先輩からもらった『浮浪雲(はぐれぐも)』。

その日の夜、僕は自分の下宿で全10巻を読んだ。そして全身が震えた。涙が
こみ上げてきた。今までに経験したことのない感動を覚えたのだった。

『浮浪雲』は小学館のホームページの書評では次のように紹介されている。

・・・

舞台は幕末の品川宿。物事に執着せず、ふわりと生きる問屋場の頭、浮浪雲。
子供の教育や夫婦間の問題、はたまた女性のくどき方まで、人生の名人浮浪雲
がサラリとヒントを与えてくれる。悩める現代人必読の名作ドラマ!!

・・・

「子供の教育」や「夫婦の問題」や「女性のくどき方」に、当時大学1年生に
なったばかりの僕が感動するはずがない。

僕が感動したのは、あえて小学館の書評の言葉を借りるならば、「物事に執着
せず、ふわりと生きる」という部分であろう。

でも、そんな安っぽいことだけではない。

僕は、この本に出てくる「ある台詞(セリフ)」から、人生における大事なこ
とを教えてもらった。

その台詞は、ふだんはボーっとしている浮浪雲が、いつもクヨクヨ悩んでいる
息子に、海岸沿いで大きな青空を見ながら、真剣な、でも澄みきった瞳で与え
た言葉だった。

      『小事を気にせず流れる雲の如し!!』

それを言われた浮浪雲の息子は、大粒の涙を流した。そして、自分でも青空を
見上げて叫んだ。

      『小事を気にせず流れる雲の如し!!』

同時に、この本を読んでいた僕の目からも大粒の涙が溢れていた。取るに足ら
ないくだらないこと執着している自分を思いっきり恥じた。

例えば学歴コンプレックス。僕は自分が第一希望の大学に入れなかったことに
劣等感を抱いていた。自分が入った大学の同じクラスの仲間たちを馬鹿にする
ような、今思うと本当に恥ずかしくなるくらいのイヤな奴だった。

例えば女性への片思い。自分の思いを相手に伝えられないウジウジした奴だっ
た。

例えば「エェカッコしぃ」の自分。本当の自分を出すのが怖い自分がいた。

そんないろんなイヤな自分を、この言葉が吹き飛ばしてくれたのだ。

・・・・・

イベントなどで、極まれに(!)僕が書いた本を買っている学生が来場したり
する。あるいは、極まれに、イベント会場で、僕の本を買ってくれる学生がい
る。

そんな学生から、本を差し出されて「サインしてください!」とお願いされる
ことがある。そんなとき、僕は決まって名前の横に書く。

『小事を気にせず流れる雲の如し!!』

僕の19番目の大切な出会いだ。僕のかけがえのない、座右の銘だ。

もしこの言葉に出会わなかったら、僕は就職することも、パフを創ることもな
かったであろう。

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