創業物語 プロフィール
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  第03話    「暗黒の小学校一年生」 2000/08/13  
はからずも幼稚園中退になってしまった僕にとって、小学校の入学式は、とても待ち遠しく、楽しみな日でした。
入学式のあとに撮影したクラスの記念写真には、張り切った表情の僕の顔が凛々しく写し出されています。

ところで、少し話は遡りますが、中退してしまった幼稚園時代を思い出すに、僕はガキ大将ではなかったにしても、比較的目立つ方の子供で、ひとを愉しませることに喜びを感じる性格の子供だったようです。

遊戯室では、毎日のように多くの仲間を集めて、紙芝居やさんをやっていました。ただ紙芝居を読むだけではなくて、登場人物ごとに声色を変えながら演じていた僕の紙芝居は、幼稚園の子供中にたいへん人気があり、先生からも誉められて、かなり有頂天になっていたのを覚えています。

当時の小学校入学前の子供は(田舎の方では特に)、今の子供たちと違い、字を読める子供が比較的少なかったんですね。
そんな中、僕は、兄が買ってくる「少年マガジン」を幼稚園入園前から愛読書にしていたため、ひらがなはもちろん多少の漢字混じりの文章でもスラスラと読むことのできる優等生だったのです。

ということで、いささかのプライドと、小学校に入っても「また紙芝居で人気者になるぞー!」という意欲を併せ持ちながら、入学式の翌日から、学校に通い始めたわけです。

しかし…。紙芝居はおろか、友達と会話すらできないつらい現実が、そこには待っていたのです。

周りの子供たちが話す言葉(大分弁)は、それまで6年間の人生で、ただの一度も聞いたこともない言語で、意味がさっぱり分からない。
もちろん、僕も、どのように話せば良いのかさっぱり分からない。

僕は熊本弁。
同じ九州だから、似たようなもんでしょ?と思われるかも知れませんが、隣の県とは思えないほどに、言葉には天と地ほどの違いがあるんです。
(東北弁と関西弁くらいの違いがあるんですよ、ほんとに)

大分弁は、やたらにキツクて、普段から喧嘩をしているような喋り方なんですね。(大阪・河内弁と広島弁をミックスしたような感じ。)
方や熊本弁は、人懐っこくて、温もりのある喋り方なんです。みなさんが良くご存知の博多弁を、もう少しやさしく、モッソリさせた感じです。

そうは言っても、6歳の子供ですから順応力がありますので、何日か経つと結構なれてきて、少しずつ周りの子供たちと会話が成立するようになってきました。

そのうち本来の陽気な性格が、だんだんと出てきて、みんなの会話に加わるようになってきました。

しかし、これがいけなかった。

もう大丈夫、と気を緩めた僕は、大勢の友達との会話中、思いっきり「熊本弁」を放出してしまったのです。
(たぶん「ヨカたい!」とか「そぎゃんこつなか!」とか「ばってん」とか)

一瞬気まずい沈黙の後、「うわー、なんじゃーこいつー。なにいうちょんのかー。どこん人間じゃー!? 気持ちわりーのー…、はな(離)りーはなりー」

「異星人現る」という感じで、僕は皆から冷たい目で見られ、奈落の底に突き落とされてしまったのでありました。

以来、怖くて誰とも話をすることができず、暗黒の小学校1年生を過ごすことになったのです。

そんな暗い僕に転機が訪れたのは、雪が本格的に降り始めた、2学期の終わり頃のある日、下校途中のある事件がきっかけでした。

今でも忘れることの出来ない「礼子ちゃん」が、僕の前に颯爽と現れ、情けない僕を、自立した男にしてくれたのでした。

(え!小学校1年生で!?)ドキドキしながら次号へつづく

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