リアル文化祭前夜がくれたもの ― 流山ティラノサウルスレースを開催してみて
作成日:2025.9.17
2025年9月13日(土)。千葉県・流山おおたかの森駅前広場は、
その日、特別な舞台へと変わりました。
人通りが絶えない商業施設の前に、突然現れたのは――約120体ものティラノサウルス。
街ゆく人々は驚き、子どもたちは歓声を上げ、そして大人たちも笑顔でカメラを構える。
ただの週末の駅前が、一瞬にして「恐竜時代」にタイムスリップしたかのよう。
その光景を少し離れた場所から眺めながら、私は胸の奥が熱くなるのを感じていました。
なぜなら、この一日をつくりあげるために、私たち事務局メンバーは6月から数えきれない打ち合わせとLINEのやり取りを重ね、準備をしてきたからです。
◆6月、始まりの声
「流山の駅までティラノサウルスレースをやります。
田代さん、事務局の真ん中に入ってくれませんか?事務局長として」
そんなオファーを
発起人であり「Nplus編集室」の同志仲間から受けたのは初夏の出来事。最初に聞いたときは、正直なところ「え?人通りの多い駅前で恐竜が走る?どれだけ壮大なイベントなのだろう」と半信半疑。でも、笑いながら語られるその企画には不思議なワクワク感がありました。コスパやタイパなど生産性重視の時代に、あえて思いっきり非合理的な着ぐるみレースで街おこしをする企画を私は「粋」を感じました。
やると決めれば本気。すぐに事務局が立ち上がり、メンバーを集いました。毎週の打ち合わせでは、会場レイアウト、テントや備品の手配、着ぐるみの数、参加者の動線、受付オペレーション。議題は山のようにあり、終わることはありません。なにせ、事務局メンバーは全員、本業のあるボランティアですので個々の予定もあって集まりにくいですし、モチベーションもバラつきがあります。仕事のように「いいからやれ!」が通用しないチームビルディングが極めて難しい環境でした。ゼロから企画を立て、チラシを仲間と作り、出展者もオファーを出すなどすべて手作りで行うプロセスは大変!の域を超えていましたが、それはそれで楽しかったです。
◆錘(おもり)との格闘
準備段階で忘れられないのは錘との戦い。テントを固定するために必要なウエイトのことですが、その数30個。ひとつあたり約8キロもあるのです。
「これを運べるワゴンがあるのは、田代さんの車だけです。
市役所が管理している倉庫から借りてきてください!」
快諾して、地図にもない倉庫に行ったものの…錘を見て衝撃を受けました。
「これ、人が運ぶのか~~~?」と何度も自問自答。
30個×8キロ=240キロ。
気づけば汗だくで、腰と腕が悲鳴をあげながら一人で何往復もしてひたすら運び、クルマの荷台に積みました。孤独な作業に、何度も心が折れかけました。でも「これ、もはやティラノサウルスの筋トレだな」と思うと、なぜか笑えてくる。そうやって「意味づけ力」を高めることで、試練を乗り越えられる瞬間が、準備の中にいくつもありました。無論、筋肉痛で体はバッキバキでしたが…。
◆リアル・文化祭前夜
準備が本格化するにつれ、夜はどんどん遅くなりました。今回協力いただく鉄道会社・つくばエクスプレスを運営する首都圏新都市鉄道
株式会社さまの本社(秋葉原)まで車を走らせて取りに行ったこともありました。本番前日の搬入は深夜0時までかかるという時間との闘い。
さらに…「やっと終わった」と思ったのも束の間。
そこからゼッケンの印刷、備品の仕分け、受付準備が始まります。時計はすでに0時半。眠気と疲労で頭はぼんやりしているのに、手は止まらない。そして追い打ちをかける出来事が――両面テープが足りない!時刻は深夜3時半。仕方なく近所のコンビニへ走りました。
しかも、自宅から最寄りのコンビニは3時には空いていないという衝撃…空からは大粒の雨。泣きたい。両面テープを買うためだけに2件隣のコンビニまで自転車をかっ飛ばし、従業員もいないコンビニのセルフレジで会計を済ませました。
私たちの会社ではよく「毎日が文化祭前夜」と言います。ワイガヤしながら、遅くまで仕事をする、あの感じです。でもこの時ばかりは、心の底から思いました。本物の文化祭前夜は、やっても、やっても終わらない。眠気と戦いながら不安に追われる。リアルガチでしんどい時間です。
◆夜が明けて、運命の日
そんな前夜を乗り越え、迎えた当日。
受付開始は10時ですが、私は搬入があるため朝6時半に現地へ。テントを立て、カラーコーンを並べ、机を運び…。観客が訪れる前の会場は静かで、ただ私たちの掛け声と汗だけがありました。
「こんなに準備って大変なんだなぁ」
その地道な作業の一つひとつが、やがて大歓声につながっていくのだと信じて、私たちは黙々と動きました。受付開始とともに、会場は一気に熱を帯びました。恐竜の着ぐるみを抱えてやって来る参加者たち。子どもも大人も、みんな目を輝かせている。
しかし、イベントにハプニングはつきものです。
予定していたタイムテーブルとのズレ、名簿とゼッケンを一部間違うハプニング、当日ドタ参(当日参加)の想定外の不足などなど。そのたびにスタッフが集まり、声をかけ合い、瞬時に役割を分担して解決していく。まるで長年一緒に舞台をつくってきた劇団のようなチームワークでした。
◆駅前に響いた歓声
そして、ついにティラノサウルスたちが走る時間。私は全体フォロー&カメラ担当として会場を開始から終了まで足にマメができるぐらい歩きました。
ゴールを駆け抜ける姿に、観客からは大歓声。子どもたちは目を輝かせ、「がんばれー!」と声を張り上げる。大人たちも笑顔でスマホを構え、その光景を収めようと必死です。普段は買い物客で賑わう駅前広場が、この瞬間だけは「恐竜の舞台」になっていました。観客の笑い声や拍手の中に、これまでの苦労がすべて報われるような不思議な感覚がありました。あの歓声こそ、私たちがこの数か月間追い求めてきたものだったのです。
◆終わりと達成感
全てのレースが終わった後も、運営の仕事は続きます。キッチンカーや出店の撤収作業、各社の備品搬出。数十社が一斉に片付けていく様子は、まさに工事現場のよう。撤収もなかなか大変でした。すべてが片付き、会場に静寂が戻ったとき――胸の奥に込み上げてきたのは、疲労、そして確かな達成感でした。
「やりきった…」
◆祭りの後に ~ プライスレスな経験
今回のティラノサウルスレースは、参加者約120名、観客も開始から終わりまで予想以上に集まり、結果は大成功でした。けれども私にとっての最大の成果は「ともに過ごした仲間、ボランティアスタッフの皆さんとの絆」だったように思います。錘を汗だくで運んだあの日も、深夜に両面テープを探した夜も、「こんな大変な思い、二度としたくない」と思いながら、結局は笑い話になる。それは一緒に活動してくださったメンバーがいたからです。
一人では絶対に成し遂げられなかったことを、仲間となら乗り越えられる。
その実感こそが、私にとっての一番の宝物になりました。
ここに行きつくまで、色々ハプニングはありましたが、何とか乗り切った!
結びに。
駅前に響いた子どもたちの笑い声と、観客の拍手。
それは私たち運営にとって最高のご褒美でした。
「街に驚きと笑顔を届ける」――それがこのイベントの目的だったのかもしれません。けれども気付けば、笑顔と感動をもらっていたのは、私たち事務局。次にまたこのレースを企画するときが来たなら、私はしんどさを思い出しながら、最後は手を挙げると思います。
ただひとつ、お願いがあるとすれば――
そのときは、誰か一緒に錘を運んでください(笑)。
まだ筋肉痛が治りません。