創業物語 プロフィール
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  第26話    「悶絶・苦悩・絶体絶命の日々~1~」 2001/1/28  
1984年4月某日。

計測技術では定評のある(といっても当時のボクは、全然知りませんでしたが)
「T社」技術センターでの、腕利き技術者とのシステム開発のための仕様打ち
合わせ。

入社2年目のSEだなんて偽ったって、所詮ボクは、つい先日までリクルート
ブックの広告営業しかやったことのない超文系人間。
あっという間にボロが出てしまいました。

この時に打ち合わせをしたシステムは、
「ZD(ツェナーダイオード)エージング装置制御システム」というやつで、
極めて荒っぽく説明すると…

「ダイオードを冷蔵庫の化け物みたいな恒温槽という入れ物に保管し、
  温度を摂氏0度~100度くらいまで切り替えていきながら、
  ダイオードから得られる電流・電圧・光量なんかを、1週間サイクル
  くらいで計測し、計測されたデータを様々なチャートやグラフや
  計算式を駆使しながら分析していく、その温度制御やデータ取得・分析
  などの一切合切すべてをパソコンで取り仕切る」

というシロモノです(といっても、わかんないっしょ?)。

こんな訳の分からないシステムを文系大学卒業したての、しかも数学も物理も
化学も音痴で、コンピュータもさわったことのない奴が、理解できるはずがな
い。

打ち合わせが本格化して15分ほど。
真っ青な顔をして脂汗を流しているボクに気づいた先方の技術者は、

技 : 「あのー釘崎さん、わかりますー?ちょっと難しいかなー?」

釘 : 「え、え、えぇ、いやー、ちょっと…」

技 : 「釘崎さんて、学生時代の専攻は?物理?数学?電気?情報?…」

釘 : 「い・いやぁ…あのーま・マーケティングを少々…」

技 : 「マーケ?ティング?…あ、じゃ、じゃぁ、パソコンのプログラ
      ミングには詳しいんだ。で、ですよね?」(覗き込むように)

釘 : 「い・いやー、それも実は…」

技 : 「……」

もうウソはつけないと観念したボクは、

釘 : 「すいません、ボクはつい先日、大学を卒業したばかりで、パソコンも
      まるで触ったこともなければ、ましてやダイオードなんてさっぱり分
      からないまるっきりの素人なんです…」

と蚊の泣くような声で、白状をしてしまったのです。

これにはさすがの、技術者S藤さん、E本さんもビックリされたのでしょう。
しばらくは沈黙が続きました。

しかし、先輩格の技術者S藤さん。

「まぁ、仕様書はキチンとあるわけだし。会社に今日の打ち合わせの内容を
  持ち帰っていただければ、会社の他の皆さんでなんとかしてくださるでしょう」

といって、残りの説明を懇切丁寧にしてくださったのでした。

薄れ行く意識の中での打ち合わせも終わり、
「もうこの会社に来ることはないだろうな。社長には悪いけど、この会社と
  の取引はオジャンだ。あーあ」
と思ってその日は帰宅。

ションボリと翌日会社に行くと、思わぬ社長の一声が…。

「おーい、釘ちゃーん。昨日はお疲れさま、悪かったね。
  さっき、T社から電話があってさ、昨日の打ち合わせのシステム、よろし
  くお願いしますってさ!
  釘ちゃん、なかなか評判良かったみたいだねー。
  『なかなか頼もしい新人ですなー』って俺誉められちゃったよー!」

おいおい、ホントかよ?

正式な受注は、会社としては嬉しいことかもしれないけど、あのワケのさっ
ぱり分からない「エージングシステム」、ホントに俺やるの…。

得体の知れぬ恐怖と不安が一気に襲ってきた瞬間でした。

そしてその恐怖と不安は、見事現実のものとなり、身も心もボロボロの釘崎
青年のグチャグチャ新社会人生活1年目が正式にスタートするのでした。

                                        (し・死ぬなよ!…つづく)

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