釘さんの100の出会い プロフィール
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  <第68話> 「人事情報システムの企画&開発&販売(その2)」   2006/04/03  
 
そのときはまだ会社に存在していなかった商品である『人事情報システム』を売り込むために、僕は電話で問い合わせのあった会社S社に訪問した。

粗悪品を、いかにも素晴らしい商品だと客に思い込ませて売りつける営業マンというのはよくいる。

しかしながら、存在しない商品を売りつける営業マンというのはさすがに珍しい。というか、そりゃ詐欺だ。犯罪行為である。

その犯罪行為に限りなく近いことを、僕はやらざるを得ない状況に置かれていた。

S社に訪問後、同社の現状や抱えている課題、今後どのようにしていきたいのか、という話をまずした。いや、その話しかしなかった。できる限り、こちらの商品説明を求められないように、S社の現状の話をさせることに集中した。

釘: 「なるほど。そういう理由で、パソコンの人事情報システムに関心を持たれたんですね」

釘: 「それで、このシステムを使って、まずはどういう問題を解決していきたいと思っておられるんですか?」

釘: 「なるほど。それは確かに便利になりますね♪」

という感じだ。で、最後には、

釘: 「なるほど。○○さんのご希望は、よーくわかりました。ただ残念ながら、そのご要望を適えるには、うちの現状の商品では、まったくといっていいほど役に立ちません」

客: 「え、そうなの?じゃ釘崎さんとこの商品はどんなことができるの?」

釘: 「いやいや、お話しするもの恥ずかしいくらい拙いものなんです。そこでご提案なんですが!」

客: 「はい?」

釘: 「うちの商品を新たに開発しなおしたいと思うんですが、御社のご要望を念頭に置いて仕様書を作ってみたいと思うんです。ご協力いただけないですか?」

客: 「え?」

釘: 「もちろん100%ご希望に沿った内容にできるかどうかは、わかりません。でも、できあがった商品は、多くの企業に販売できるパッケージシステムになりますんで、オーダーメイドで作るのに比べれば、驚くほどの低コストで導入できるはずです」

客: 「ほう」

釘: 「できあがったものが意に沿わないものだったら買わなければいい話ですので御社にとってのリスクもないはず。ただ、私がこれから作る仕様書に色々とアドバイスを頂戴したいんです。私なんかが一人で考えるより、○○さんのご意見を参考にしながら進めていったほうが、ユーザーのニーズを外さない商品が開発できると思うんです」

客: 「ほほう」

釘: 「実は私は、この商品の開発を行なうために、この会社に入ったようなものなんです。まだこの会社に移ってきて数ヶ月程度なんですよ。ははは」

実際にはこんな単純な会話ではなかったのだが、大筋はこの通りだ。しかもS社が欲している『人事情報システム』は、どこの会社でも欲している内容だと思われるものがほとんどで、担当者の知識やシステムに対しての造詣も深い。

これは逆にノウハウを吸収するいいチャンスだと思った。このS社を巻き込めば、正真正銘のH社オリジナルの商品を開発できると思った。詐欺まがいの商売をすることもなく、皆がハッピーになれると思った。

そして、とんとん拍子に話が進み、その後、S社の担当者は僕と一緒に仕様書づくりに取り組んでくれることになった。「しめしめ」とは、このことを言うのだと思った。



(長くなりそうなので、「その3」につづく)

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