自転車操業物語 プロフィール
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  第82話    「SS社のNさんとの出会い」(後編)    
「あ、どうもいらっしゃいませ!」

SS社のNさんは、玄関ロビーに不意に現れた。縦にも横にも、ビッグ&ワ
イドな、ひとことでいえば「デカイ」人だった。


ボクとフルカワは、椅子から飛び上がり、Nさんに、「約束の時間をこんな
にも遅れてしまい、申し訳ございません!!」とそろって頭を下げた。


「いえいえ、午前中は用事がありませんでしたから…」と穏やかにNさん。


Nさんは、汗びっしょりの2人の姿を一瞥し、一瞬ちょっと考えたようだっ
た。そして…。


「まぁまぁ、じゃ、とりあえずは、こちらへどうぞ。暑かったでしょ?」

と、ニコニコ笑いながら、ボクとフルカワを、先導してくれた。


廊下を通って、階段を下りていく。ちょっと薄暗い、地下に続く階段だった。

「ま、まさか、遅刻をした罰で、牢獄に放り込まれるのでは……」などとは
さすがに思わなかったが、「いったいどこに連れて行くんだろう」と思いな
がらNさんの後を、ボクとフルカワは、トボトボとついていった。



「さ、どうぞこちらにお座りください。まだ暑いでしょ?
どうぞ上着を脱いでゆっくりしてください」

とNさんに通されたのは、なんとSS社の社員食堂の丸テーブルだった。


「えっと…、冷たいのがいいですよね?アイスコーヒーでいいですか?」

Nさんは、ボクとフルカワが腰掛けると同時に、カウンターにアイスコーヒ
ーを注文してくれた。


正直言って助かった。
なんたって炎天下30分間、走りっぱなしだったのである。
もう熱中症寸前で、水分を補給しなければ、ぶっ倒れそうだったのだ。


「さ、どうぞどうぞ」

出てきたアイスコーヒーをNさんは勧める。

ボクは遠慮なく、ストローの袋を引きちぎり、シロップもミルクも入れずに
グラスにストローを一刺し、ぐいッぐいッぐいッと、一気に飲み干してしまっ
た。

フルカワに目をやる余裕もなかったが、彼女のグラスを横目で見ると、やは
り、もう氷しか残っていなかった。


「あれ〜、パフさんって、月島なんですか?へぇー奇遇ですね、僕は勝どき
に住んでいるんですよ。っていうことは、歩いても行ける距離ですね」

Nさんは、ボクたちの名刺を見て、こう切り出してきた。

それからしばらくは、仕事の話などそっちのけで、パフが創業から今に至る
苦労話や、実はフルカワはまだ内定者で、会社にはまだ他の内定者3名がい
るということや、営業活動をやっているのは、何を隠そう、この内定者の4
名のみであること、その内定者の仕事振りは、きょうの大遅刻にも代表され
るとおりムチャクチャであることなどを、面白おかしく説明した。


こっちは大遅刻の引け目があり、売り込みの話しなどするつもりはなかった。
開き直って、あるがままの正直なパフを、Nさんに語ったのだった。


今思えば、この日のSS社への大遅刻と、この食堂でのアイスコーヒーを飲
みながらのサックバランなひとときが、その後の運命を決定付けたのかもし
れない。

(後編といいながら、次回へと続く…)

 
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