自転車操業物語 プロフィール
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  第67話    「  公募増資で資金調達  」    
2000年7月17日。

ボクは、東京の日本橋茅場町にある、東京証券会館の大会議室にいた。
投資家を対象とした「パフ事業内容説明会」を行うためだ。

……

パフは、設立の翌年(1998年)に、日本証券業協会が運営する未公開企
業用の株式取引市場「グリーンシート市場」に登録していた。

「グリーンシート市場」に登録する会社の株式は、証券会社が取り扱っても
良いことになっている。もちろん新株式の発行に際しても、広く投資家に対
して、購入を呼びかけて良いことになっているのだ。


ボクは、この年の頭からトライしていた資金調達がうまくいかなかったため、
この「グリーンシート市場」を利用して、新株式を発行し、資金調達
(公募増資)をすることにした。


公募増資をすると、社長であるボクの株式所有比率を低下させることになる。
つまり、自分以外の多くの株主(=会社の所有者)が存在するようになるわ
けで、創業社長といえども、自分の意思だけでは会社を運営できなくなる。
極端な場合、株主に「No!」と言われれば、社長をやめなければならない
ことだってある。

2年前にも公募増資をしたことがあり、ボクの株式所有比率は、すでにジリ
貧状態。今回増資をすると1割にも満たない比率になってしまう。

一種、覚悟を必要とする資金調達手法だったのだ。

しかし、背に腹はかえられない。
パフを存続させるためには、今すぐの資金調達が不可欠だった。

……

この日の「パフ事業内容説明会」は、公募増資に先立って、多くの投資家に
パフのことを知ってもらうことを目的として開催された。

この日のために、パワーポイントを使い、数十ページの事業計画書を作成した。
投資家に、「パフは投資するに値する会社」であることをPRするためのプ
レゼン資料だ。


参加している投資家は50名程度。一部ベンチャーキャピタルを除いて、
ほとんどが個人投資家だ。

約30分間。熱弁を振るいながら現在のパフの事業内容、これから先の事業
計画について説明した。


投資家は、真剣にボクの説明に聞き入っていた。


ちなみに、この頃グリーンシート市場で取引されていたパフの株価は、
1株17万円。額面が5万円だったので、3倍以上の値がついていた。
ITバブルの名残もあり、比較的高い価格で取引されていたのだ。

この市場価格を元にして、今回の公募価格は、16万9千円に決定していた。
発行株数は、270株。
発行株式すべてに引き受け手が付けば、4千万円の資金を得ることができる。


しかし、いかに市場で値がついているとはいえ、パフはまだ大赤字状態の、
設立2年半の会社。そんな会社の株を、投資家は額面の3倍以上のお金を出
して購入するわけだ。


そう簡単に、投資の判断ができるわけがない。


ボクの説明が一通り終った後、投資家から様々な質問が飛び交った。中には
「うっ痛いところを突かれた!」という辛らつな質問もあった。


しかし、ボクの情熱を込めた受け答えが良かったのか、最終的には、みなさん
から拍手をいただいて説明会を終了することができた。


この説明会は、2日後の7月19日にも開催された。
いずれの説明会にも、ほぼ満席の出席が得られた。


証券会社への株式購入の申込締切は、7月28日。
この日までに、投資家から申し込みのあった株数だけ、増資(資金調達)が
可能となる。


説明会はどうにかこうにか乗り切ったものの、果たして、何株分の引き合い
があるのか…。


締切日まで、とても不安な日を過ごすことになった。


新卒者4名の採用を決定したものの、当時のパフには、新卒者を養う資金的
余裕などまったくなかったのだ。

もし、今回の公募増資がうまく行かなければ、最悪「内定取り消し」をしな
ければならないかもしれない。

せっかく出会った将来のパフを築いていってくれる内定者たち。
内定取り消しなんて、とんでもない。
絶対に、今回の増資は成功させなければならない。


神にも祈るような気持ちであった。


そして、「株式購入申込締切日」を迎えた。
幹事証券会社であるディー・ブレイン証券の担当者、Mさんから連絡が入っ
た。

(何株の申し込みがあったのか!?…ドキドキしながらつづく)

 
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