釘さんの100の出会い プロフィール
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  <第62話> 「森の熊さんキムラさん(後編)」   2006/02/20  
 
エンジニア時代の先輩、森の熊さんキムラさんと再会を果たしたのは、それか ら8年後の1997年10月。僕が「パフ」を創業しようと決意した時だった。

会社を創ろうと思ったものの、貧乏サラリーマンだった僕には資本金となるべ き現金がほとんどなかった。

そこで僕は、いままでの人生の中で知り合った信頼できる友人のところを毎日 のように訪ね歩き、出資のお願いをして回っていた。

しかし、なかなか思うように資本金が集まらない。当時の法律では、株式会社 を設立するための最低資本金は一千万円。そうカンタンに集めることのできる お金ではなかった。

そんななか、ふと思い出したのがキムラさんのことだった。数年前に独立して、 会社を経営していることは知っていたが、不義理なことに連絡は一度もをとっ たことがなかった。

キムラさんが作った会社には、僕の昔の同僚だったI君やT君や、先輩たちも 何人か入社していたので、「皆で会おう」と連絡をしてみた。もちろん僕の目 的は、皆から出資を仰ぐことだったのだが。

東京は蒲田にある居酒屋。昔の同僚3人とキムラさんが駆けつけてくれた。酒 を口にする前に僕は、自分が会社を設立しようと思っていることと、出資を仰 ぎたいことを切り出した。

キムラさんは、

「クギ、独立なんかやめとけ。社長になっても良いことなんて何もない。苦労 するだけだ。奥さんや子供にも苦労をかける。考え直せ」と、僕を諭すように 言う。昔の同僚たちも神妙な面持ちで、うつむいている。

それでも僕の考えは変わらない。出資を仰ぐなんてことは、もうどうでも良か った。会社をつくって自分の力を試してみたい、ということや、どんな苦労が あろうとも絶対に負けない覚悟はできている、といったことをキムラさんに訴 えかけた。

キムラさんはそれでも、「クギ、悪いことは言わない。やめとけ」を繰り返す ばかりだった。気まずい沈黙の時間が流れた……。

「クギ、100万円でいいか」

突然のキムラさんの言葉に、僕は耳を疑った。

「え!?」

いまの今まで、さんざん「やめろ」と言っていたキムラさんが、急に100万 円ものお金を出すと言う。狐につままれた気分というのは、こういうことを言 うのであろうか。

キムラさんは続けて、「まぁ、クギがそこまで本気で会社をやるっていうんな ら大丈夫だろう。俺が応援しないわけにもいかないだろう」と、笑顔で言って くれた。

涙が出るほど嬉しかった。いや、実は本当に涙が流れた。

後で分かったことだが、キムラさんは最初から皆と相談して100万円を出資 することに決めていたらしい。同時に、会社を設立するということが、どれだ け大変なことであるのかということも分からせ、それで僕の気持が揺らぐよう であれば、引き止めたかったのも事実らしい。

キムラさんには、それ以来、いろんなところで助けてもらっている。キムラさ んの会社はパフの重要な協賛企業の1社でもあるし、キムラさんには、パフの 監査役も務めてもらっている。

森の熊さんキムラさん。素晴らしいエンジニアであると同時に、男気溢れる僕 の人生の大先輩だ。最初に出会った23年前、まさか今のような関係になって いるなんて夢にも思わなかった。

39番目の出会いは、まさに人の縁の不思議さと面白さをしみじみと感じさせ てくれる、パフの現監査役でもあり、協賛企業エフティエス・ディスカ社長で もあるキムラさんのお話しでした。
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